2017年のiPhone発表会に、10年先のAppleをみた(前編)

Apple Special Eventの画像 Apple
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すでにご存じの通り、9月13日、日本時間の午前2時から「Apple Special Event」がありました。

発表されたのは、以下の製品です。

  • 携帯電話ネットワークに対応したApple Watch Series 3
  • 4K HDRに対応したApple TV 4K
  • カメラ機能が向上し、ワイヤレス充電に対応したiPhone 8
  • ホームボタンを廃して大画面を実現、新しいFace IDを搭載したiPhone X
  • ワイヤレス充電に対応した複数のApple製品を一括で充電できるAirPower

特にiPhone Xは今回の発表の目玉で、一言で言い表すのは難しいくらいの大きな進化がありました。ニュースでも大きく取り上げられており、世間からの関心も高いように思います。

今回発表されたそれぞれのデバイスについての詳細は、他のニュース記事でもすでに詳しく紹介されているため、ここでは触れません。

それよりも、私が今回の発表会で感じたのは、10年先のAppleのことについてでした。この記事では、そのあたりの私が感じたことについて書きました。

この記事は前編です

世間的にはiPhone Xの方が話題となっていますが、個人的にはApple Watchに注目していましたので、前編はApple Watchの話題です。iPhone Xについては、後編で。

2017年のiPhone発表会に、10年先のAppleをみた(後編)
iPhone Xの発表会をみて、10年先のAppleのことについて考えました。後編は、iPhone Xや今後のAppleについて考察します。

 

iPhoneの呪縛から逃れたApple Watch

単体でセルラー通信が可能に

Apple Watch Series 3の画像

今回発表された新しいApple Watchの目玉は、携帯電話のネットワークに対応したことです。それにより、iPhone無しでもApple Watch単体で通信ができるようになりました。実際に、発表会でもサーフィン中にApple Watchを使って、iPhone無しで、ハンズフリーで通話している様子がデモされています。

サーフィン中にApple Watchで通話している画像

今回のセルラー版Apple Watchの登場以前でも、通信を必要としないアプリはApple Watch単体で使えるようになっていましたし、一世代前のSeries 2では、GPSを内蔵して単体でもワークアウトアプリを使えることがPRされていました。

このように、Apple Watch単体でできること自体は着々と増えていたわけではありますが、あらゆる機能がオンライン前提になりつつある昨今では、Siriであったり、通知であったりなどの通信を必要とする機能を単体で使えない1のは、痛いです。そういう意味で、Apple Watch単体でできることは非常に限られていたと言えます。

それがセルラー版であれば、どこでも通信できるわけですから、その可能性は大きく広がったと思います。

Apple Musicが手首の上に

Apple WatchでApple Musicが使える

携帯電話ネットワークへの対応による一番わかりやすい恩恵が、Apple Musicへの対応でしょう。発表会では、Apple Watch単体でApple Musicが使えることを示すキャッチフレーズとして、「40 million songs on your wrist」と示されました。Apple Musicの4000万曲もの膨大な曲を、手首の上で再生できるわけですね。

16年前の2001年に発表された初代iPodのキャッチフレーズは、「1000 songs in your pocket」でした。それを意識してのキャッチフレーズだと思いますが、やはり16年でここまで進化したのかと思うと感慨深いです。なにしろ、1000曲が4000万曲に増えたわけですから。

初代iPodの画像

初代iPod

そしてハードウェアの進化もありますね。初代iPodの発表以降、iPod miniやiPod nano、iPod shuffleなど、小さくて手軽に使える製品が発売されていくわけですが、手軽さでいうなら、腕時計型のApple Watchがダントツです。そしてこの小ささでありながら、ボディいっぱいの画面を搭載し、携帯電話ネットワークにも対応しているわけです。

すでにiPodシリーズは、iPod Touchを除いて販売中止となっていますが、次世代iPodの役割は、新しいApple Watchが担ってくれることでしょう。もともと、Apple MusicとApple Watchの相性はとてもいいと思っていたため、これだけでも新しいセルラー通信対応のApple Watchは非常にうらやましいなと思います。

Apple Musicと合わせてApple Watchも使うべき5つの理由
Apple MusicとApple Watchの相性はとてもよいです。サッと曲情報の確認・各種操作ができますし、曲を転送することも可能です。

ついに単体でSiriに対応

Apple Watch単体でSiriが使える

もう一つ、Apple Watchが単体で通信できるようになることの利点は、iPhoneが無くても、Siriが使えるようになることです。

今までは、例え「タイマーを3分にセット」というような簡単な指示でも、iPhoneがなければ使えませんでした。しかし、これからはそれがApple Watch単体で可能になります。

 

そして、電話をかけたり、メッセージを送れたりなど、Apple Watch単体でできることが増えていることも、Siriを使う上では大きな利点ですね。「○○に電話をかけて」という指示もできるようになりました。

Appleらしい「使える」セルラー版

セルラー版(携帯電話のネットワークに対応したもの)のスマートウォッチはApple Watchが初めてではありません。セルラー版でありながら、従来通りの小さいサイズを維持しているという技術は大変素晴らしいですが、機能自体に見当たらしさはありません。

しかし、Appleがさすがだなと思ったのは、電話番号をiPhoneと共有しているということです。それにより、iPhoneが手元に無くても、iPhone宛の電話をApple Watchで受けられるようになりました。これは、他のセルラー版スマートウォッチには無い機能です。

従来より、同じWi-Fiネットワークに接続していれば、iPhone宛の電話を他のデバイスで受けられる機能はありましたが、今回は携帯電話ネットワークを使用しているわけですから、携帯電話会社の協力が必要です。ユーザーの利便性のため、世界中の企業を説得して新しい仕組みを作るあたりが、Appleらしさであり、Appleの強みだと思います。かつてのiTunes Music Storeの立ち上げがその好例ですね。きっと他のメーカーも追随していくことでしょう。

 

新しいApple WatchとiPhoneの関係性

iPhoneを持たなくて済む場面が増えるかも

Apple Watchの画像

iPhone無しで通信ができるようになったことをPRするキャッチ

Apple Watchの利点は、常に手首にある、ということです。

iPhoneの場合、画面サイズが大きいPlusシリーズだと、服装によってはポケットに入れて持ち運ぶことは難しいでしょう。Plusシリーズでなくても、手帳型ケースを使っていたり、ポケットがない服を着ていたりすると、持ち運び用のバッグが必要です。

常にウェブブラウズをしたり、SNSで友だちの投稿を眺めたり、スタンプを多用したLINEのやりとりを頻繁にする人であれば、iPhoneを持ち歩かないことは考えられないでしょうが、全ての人がそうではないでしょう。「緊急連絡があるかもしれないから、念のため携帯電話を持ち歩いている」という程度の人であれば、最も身近で小さいデバイスであるApple Watchにより、荷物を一つ減らすことができます。iPhone宛の電話や通知を受信でき、必要であればこちらから発信もできるからです。

そういう人にとっては、少し外出するためだけにiPhoneを持ち運ぶ必要は無くなりますね。

 

……ただ、そもそも現在Apple Watchを買おうとするユーザー層を考えると、「常にiPhoneを携帯していないと落ち着かない」という人が多いのかなと思います。そう考えると、Apple Watchにより「iPhoneを持たなくて済む場面が増える」というのは、あまり当てはまらないかもしれません。

大切なのは、やはり「なぜiPhoneで同じ事ができるにも関わらず、Apple Watchを持つのか」という部分でしょう。

iPhoneがあればApple Watchはいらない?

Apple WatchとiPhoneの画像

たしかにiPhoneでも同じことはできるけど

電話、Apple Music、Siriが単体で使えるようになったことが大きなメリットとして宣伝されている新しいApple Watchですが、そもそも、どれもiPhoneがあればできることです。事実、「普通にiPhoneを使えばいいじゃん」という意見も散見されます。

しかし、何かが「できる」ということと、より快適に「使える」ということは、別問題です

 

iPadを例にそれを考えてみましょう。

「iPhoneがあれば何でもできるから、iPadは不要」という声があります。確かにそれはそうですが、iPadの方が便利なことも多いから、iPadを使う人が多くいるわけです。

かつて、初代iPadが発表されたときは、iPhoneとMacBookの中間の隙間を埋める製品として、iPadが紹介されました。その際、ジョブズはiPhoneやMacBookと比較して、「Far better at some key things」が重要であると述べました。

これは例えば、ウェブブラウズをしたり動画を見たりなどの作業はMacBookでもiPhoneでもできますが、それでも「iPadを使いたいと思えるような利点」がなければならない、ということを示しています。

確かに、このような作業は、iPhoneでは画面が小さく操作がしにくいですし、かといってMacBookでは気軽さや柔軟性に欠けます。そんなとき、気軽に大画面を生かした操作が行えるiPadなら、快適に行えます。

だから、iPadが必要である、ということですね。

初代iPadの発表会のスライド

 

では、Apple Watchにとっての「Far better at some key things」とは何でしょうか。

私は、iPadの方向性とは真逆の、画面を必要としない(または最小限の画面表示があれば足りる)作業だと思っています。ここにどれだけ価値を感じるかで、Apple Watchの意味づけは大きく変わります。

Apple Watchだからこそ、iPhoneよりも快適に使えることもある

例えば、音楽を聴くために大きな画面は必要でしょうか

iPod shuffleのように、まったく画面を搭載しないiPodが一世を風靡(ふうび)して売れた時代もありましたし、そこまで突き抜けなくても、iPod nanoを含む携帯型音楽プレーヤーの製品の多くは、画面サイズよりも携帯性を優先していました。

iPod shuffleの画像

画面がないかわりに、どこでも気軽に音楽が聴けるようになったiPod shuffle

それはやはり、(選曲は画面が大きい方が有利なものの)音楽を聴くこと自体に画面は不要で、それよりも、利用シーンを選ばない携帯性の方が重視されるからです。例えばランニングをしながら音楽を流すときは、大きな画面を搭載した本体は邪魔なだけですね。

こういうとき、手首にあるApple Watchなら、iPhone以上に快適に音楽を楽しむことができます。選曲もSiriを使って、今聴きたい曲をすぐに再生することができます。まだ固有名詞の認識が甘く、すこしマイナーな曲名やアーティスト名だと認識されないこともありますが、そこは補助的に画面を使えば事足ります。

 

今回セルラー版の目玉となっている電話や通知、Siriなども、よく考えれば大きな画面は必要ありません。電話についていえば、イヤホンとマイクさえあれば、画面すらも不要です。Siriについても、例えばiPhoneの電卓アプリを使って計算するより、Apple WatchのSiriに計算をお願いした方が早いこともあります。

Apple Watch Series 2から搭載されたApple Payだって、残高を確認できる位の画面サイズがあれば、大きな画面は必要ありません。

 

 

このように、画面を必要としない(または最小限の画面表示があれば足りる)作業は、iPhoneではなくApple Watchの方が手軽で快適なものが多いです。

初代Apple Watchが登場した当時は、「小さなiPhone」として、どう考えても小さな画面では使いにくいアプリがApple Watch向けに提供されるケースも多かったですが、最近はそれも一通り落ち着きました。画面をいろいろ操作するのであれば、iPhoneの方が快適だからです。現在でもよく使われるアプリや機能は、やはり画面を必要としないか、もしくは本当に最低限の画面表示で済むものばかりだと思います。

そして、やはり今回のセルラー版も、iPhoneと電話番号を共有して、より快適に電話が使えるようになったり、Siriがどこでも使えるようになったり、Apple Musicへのアクセスができるようになったりと、画面を必要としない部分でのアップデートが多いです。そこが、現在のAppleが考えるiPhoneに対しての「Far better at some key things」ではないかな、と思うのです。

 

Apple Watchが今後化けるかどうかのカギは、Siriだと思う

Appleの新しいユーザーインターフェイス

かつて、初代iPhoneの発表のとき、Appleが開発したユーザーインターフェイスとして、Macに採用したマウス、iPodに採用したクリックホイール、そしてiPhoneに採用したマルチタッチが挙げられていました。

初代iPhone発表会の画像

Apple Watchの場合はこの3つのいずれも搭載されず、その代わりにForce Touch2やデジタルクラウンという新しいユーザーインターフェイスが搭載されましたが、これらはこの3つのインターフェイスと比べると、あまり使いやすいとは思えません。結局、小さな画面をちまちま操作することには変わりないからです。

 

しかし、Siriが使えれば、その操作性は大きく変わります

事実、ポインティングデバイスを有効に使えないApple TVでも、第4世代からSiriを使ってあらゆる操作ができるようになりました。確かに、リモコンでちまちま操作するよりは、音声認識を使って操作した方がずっと快適でしょう。

Apple TVの画像

Siriを呼び出せるボタンがリモコンに搭載されるようになった第4世代Apple TV

Apple TVだけでなく、Macでもそうですね。最新のmacOS Sierraからは、Siriが使えるようになりました。Macは、トラックパッドやマウスを使えるためSiriの活躍度は落ちますが、それでも特定の日付に作成したファイルを探す、といった少し込み入った検索などで、その真価を発揮します。

極論を言えば、Siriに画面はいらない

最近はSiriを搭載した「Home Pod」も発表されています。

Home Podの画像

Home Podを含め、あらゆるApple製品にSiriが搭載されつつありますが、この製品には画面がないという点で、他とは異なります。iPhoneとペアリングをしてそこから操作を行うこともできますが、やはりメインはSiriを使った操作でしょう。

ここに、Siriの可能性を感じることができます。精度の良い音声認識があるなら、画面は無くてもよいのです。

 

特に今回、新しいApple Watchは、CPUの速度が速くなったことで、Siriがしゃべるようになっています3。これにより、例えばAir Podsで音楽を聴いている最中に、Siriを使って一切画面を見ずに、音声だけで操作をすることもできるようになるでしょう。

手軽にSiriを使うには、Apple Watchがベストの形だと思う

こうした状況に、「10年先のApple」を見ることができます。Appleは今後も人工知能や音声認識の精度を高めて、どんどん完成度を上げていくことでしょう。

しかし一方で、10年先の未来が来たとしても、やはり音を聞けない状況、声を発することができない状況はありますから、自宅で使うことが前提のHome Podとは違い、最低限の画面が必要となる状況はあることでしょう。

そういう意味で、手首につけられる小さな画面を搭載したApple Watchは、Siriの発展によって大きく変わる可能性があると思うのです。今後Siriがさらに進化し、より一般的になれば、以前発表されたAir Podsのようなイヤホン型デバイスと合わせて、今後10年間で大きく成長していく気がします。

そんな理由から、いつでもApple Watch単体でSiriが使えるセルラー版Apple Watchに、未来を感じていました。

 

セルラーモデルがほしいけど……

Apple Watch Series 3の画像

そんなわけで、セルラー版Apple Watchには期待しています。今回、安価なアルミニウムモデルは携帯電話ネットワークに対応していないGPS版のみが販売され、セルラー版は、ステンレススチールやセラミックのモデルでしか販売していません。このあたりの割り切りも、全モデルでセルラー版とWi-Fi版を用意しているiPadとは、方針が異なります。

Appleとしては、ステンレススチールやセラミックモデルのような高級路線はセルラー版に特化させ、軽量で使いやすく、値段的にも手頃なアルミニウムモデルはスポーツ用・日常使用に特化させて、差別化を図っているのかなと思います。

 

……と、ここまでセルラー版Apple Watchをベタ褒めしてきたわけですが、残念ながら私は買えません。

というのも、そのセルラー版Apple Watchは、iPhoneで3大キャリア(docomo、au、SoftBank)のいずれかを契約していないと使用できないのです。残念ながら、私は格安SIMを使っているため、セルラー版Apple Watchを買っても使えません。

GPS版も興味がありますが、そこは使っている方のレビューをみながら検討することにします。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

後編では、iPhone Xや、「スティーブ・ジョブズシアター」のことについて触れたいと思います。

2017年のiPhone発表会に、10年先のAppleをみた(後編)
iPhone Xの発表会をみて、10年先のAppleのことについて考えました。後編は、iPhone Xや今後のAppleについて考察します。

脚注

  1. ただし、Wi-Fi通信が利用できるなら、そこを通じてネットワークにアクセスできる。
  2. iPhoneでいうところの3Dタッチ。画面を強く押すことで別のメニューを出す仕組み。
  3. 従来型のApple Watchは、例えBluetoothイヤホンを接続していたとしても、Siriがしゃべることはなく、文字が表示されるだけだった。

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