メモアプリ戦国時代のEvernoteの使い方を考えた

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私はずっと、Evernoteをメインのメモアプリとして使っている。10年以上にわたって、さまざまな資料をEvernoteに蓄積し続けてきたため、自分ならではの強力なデータベースに育ってきている。まさに自分の第2の脳として、とても頼れる存在であり続けてきた。

しかし、昨今のEvernoteは改悪が続き、第2の脳として使うには少々不便なところも目立つようになってきてしまった。

そして、かつてはEvernote一強だったメモアプリ界も、スマートデバイスの普及に従っていろいろなアプリが乱立し、メモアプリは戦国時代となった。新興勢力が台頭し始め、巷では、Evernoteから別のサービスに移行したという報告が目立つ。もはや「脱Evernote」が今のトレンドなのだ。

そんな状況を踏まえて、今回はなぜ私がEvernoteを使い続けているのかという理由を改めて振り返り、今後のEvernoteの使い方を考えてみたい。

私がEvernoteの一元管理にこだわってきた理由

現在私は、すべてのメモや資料をEvernoteで管理している。思いついたアイデアやちょっとしたメモ、重要なメール、いいなと思ったウェブサイトのページ、書類をスキャンしたPDFデータなど、今後も取っておきたいと思うようなメモや資料などは、とにかくすべてEvernoteに保存してきた。

別にEvernoteでなくとも、Notion、OneNote、Apple純正メモ、Obsidian、Scrapboxなどなど、とにかく優れたメモアプリやサービスが世の中にはたくさん存在する。しかし、それでも、私はEvernoteに情報を集約することにこだわってきた。

その大きな理由が、ポケット一つ原則である。

ポケット一つ原則とは

整理術について書かれた書籍は世の中に数多く存在するが、代表的な書籍としては、経済学者の野口悠紀雄さんが出版したベストセラー『「超」整理法』が挙げられる。

1993年に出版された本であるため、デジタル関連の記述はさすがに時代を感じるが、情報は分類しないという考え方や、押し出しファイリング法など、今でも有効な考え方が数多く書かれている。

そしてその中で紹介されている概念が、ポケット一つ原則だ。

ポケット一つ原則とは、すべての書類の置き場所を1箇所にしましょう、という原則のことである。

それによって、捨ててさえいなければ、「ここを探せば必ずある」(逆にいえばここになければ存在しない)という安心感が生まれる。人間の記憶は、場所については弱いといわれるため、内容に応じて置き場所を区別すると、見つからなくなってしまう。いろいろなものを区別せずに情報を1箇所に限定し、まさに「ポケット一つ」になんでも詰め込もう、という考え方だ。

私はこの考えをもとに、Evernoteを使ってポケット一つ原則を貫いてきた。すべての情報をEvernoteに詰め込むことで、「Evernoteを検索すれば必ずほしい情報にたどり着く」という絶大な安心感を得ることができるようになる。これは非常に大きい。

Evernoteは、ポケット一つ原則に最適なツール

私がEvernoteから離れられない理由は、ここにある。

ツールの機能を一つ一つ見ていけば、Evernoteよりも優れた機能を持つアプリやサービスはいくつもある。しかし、ポケット一つ原則をデジタルツールで実践すると考えると、なんだかんだで、総合的にはEvernoteが優れていると感じるのだ。

実質的に容量制限がない

Evernoteは、クラウドかつマルチプラットフォームなサービスなので、アイデアを思いついたとき、いつでもどこでも、どんなデバイスでも、どんなプラットフォームでも、環境を問わずにメモできるという安心感がある。ウェブサイトだけでなく、各プラットフォームでアプリを提供して、(ブラウザで使用するよりは)快適に使えるようになっているというのは大きい。

加えて、一般的なサービスであれば、全体の保存容量に対して制限がつくものが多い1が、Evernoteは違う。全体の保存容量は無制限で、その代わり、毎月の保存容量が制限される2仕組みとなっている。

Evernoteに課金をしていれば、通常の使い方をしている限り、毎月の保存容量を使い切ることはない。実質的に、無限に保存できる感覚だ。もちろん情報はクラウドに保存されるので、パソコンやスマホの容量を気にする必要もない

様々な情報をポケット一つに保存しようとすれば、どうしてもその過程で、容量の大きなPDFや、参考となる動画などを入れ込むことがある。全体の保存容量を気にして、「この情報は取っておかなくてもいいかな……」という気持ちになるのでは、システムの魅力が半減してしまう。

十分な保存容量があり、月が変われば、その容量はリセットされるというのは、Evernoteを使う安心感につながっている。

何でも素早く簡単に放り込める効率性と柔軟性

Evernoteは、どんな情報でも手軽に放り込める効率性と柔軟性がある。

WindowsやMacを使っているなら、普通にEvernoteアプリを立ち上げて新規作成ボタンをクリックしなくても、グローバルショートカットを使うことができる。これなら、どんな場面からでも特定のショートカットを押すことで、すぐに新規ノートを作成することができる

AndroidやiPhoneなどでも、素早くノートを作成したり、撮った写真をすぐにEvernoteにアップロードしてくれるようなサードパーティのアプリや仕組みも整っている3

そしてEvernoteなら、単なるテキストや写真だけではなく、あらゆるファイルを自由に保存できる。

WordやExcelファイルはもちろん、写真や動画も、複数のファイルをまとめたZipファイルも、特殊な拡張子のプログラムファイルや設定ファイルも、何でもファイルストレージのように保存することができる。これもまた、ポケット一つ原則を貫くには、ありがたい仕様だ。

情報の取り込み手段が多い

Evernoteは、他のサービスと連携させることで、より多くの情報を取り込めるようになる。

例えばEvernoteには、専用のメールアドレスにメールを送ることで、その内容をノートとして保存してくれる機能がある。だから、保存しておきたいメールがあるときは、単純にこのアドレス宛に転送するだけで、添付ファイルを含めてEvernoteに自動で保存してくれる。Evernoteに保存すれば、そのメールに関連する情報やファイルなどを追記して整理することもできるし、ノートリンクを使って関連するメールをわかりやすくまとめておくこともできる。

ブラウザに拡張機能を追加することで使えるウェブクリップ機能も便利だ。ウェブクリップという機能自体はめずらしくないが、Evernoteは他のサービスと比べ、きれいにクリッピングしてくれることが多いと感じる。クリップした理由や、感想などを追記することも簡単にできるし、ノートを検索する際、クリップした内容まで対象となるというのもいい。

老舗ゆえに、連携アプリが多いというのも魅力の一つ。様々なサービスで、Evernoteとの連携機能が用意されている。例えば、私が使っている「たすくま」というアプリは、一日のログをEvernoteに保存する機能がある。これなら、Evernoteに毎日の情報が蓄積されていく。前述のメールからノートを作成する機能とIFTTTなどのサービスを使って、いろいろな情報を自動で取り込む仕組みを自分で作ることも可能だ。

このように、何でも手軽にあらゆる情報を放り込める柔軟性があるのも、ポケット一つ原則の実践と相性がいい。

タグと検索を用いた柔軟なシステム

情報は、放り込むだけでは意味がない。「この情報がほしい」と思ったときに、確実にその情報にたどり着けることが重要だ。

従来のように紙で印刷された情報を紙のまますべて蓄積していくとしたら、しっかりと資料をカテゴリごとに分類して整理するという作業が必要となる。これはとても大変なことだ。

しかし、Evernoteなら、何もせずにただ情報を突っ込むだけでいい。Evernoteに備わる強力な検索機能で引っ張り出すことが可能だからだ。

Evernoteの検索対象は、ノート本文だけにとどまらず、Officeファイルの中身やPDFファイルの中身までが含まれる。さらに、テキスト化されていないPDFや画像でさえも、Evernote側で自動的にOCRを行い、検索対象としてくれる。海外サービスにありがちな、「英語なら使えるが、日本語だと精度がいまいち」ということもない。

とりあえずEvernoteに入れておけば、検索によって必要なノートにいつてもどこでも手軽にアクセスできる。これは、ポケット一つ原則を貫き運用していく上で、非常に心強い。

加えて、ノートブックとタグを使った分類により、情報を系統立てて整理することも可能だし、ノートリンクの仕組みを使って、関連するノートをリンクさせて整理していくことも可能だ。また、素早くアクセスしたい利用頻度が高いノートは、ショートカットを使うことで簡単に飛ぶこともできる。

Evernoteは、人それぞれさまざまな使い方ができる、柔軟性と包容力をもつサービスだと思う。そこが素晴らしい。さすが、10年以上にわたって、メモアプリの定番として親しまれてきただけある。

正直なところ、情報をしっかりとまとめ上げ、視覚的にわかりやすく系統立てて情報を整理するには、Notionの方が向いているように思う。Notionは少し触った程度の経験しかないが、それでも情報を整理して、生きたデータベースを美しく作るには、非常に優れたサービスだと感じた。多くの人がEvernoteの代替先として使用するのもよくわかる。

しかし一方で、整理しにくい雑多な情報は、Evernoteの方が優れていると感じる。そうした雑多な情報も含めて一つにまとまっているからこそ、ポケット一つ原則が機能するようになる。だから、私はEvernoteから離れられないのだ。

しかし、最近のEvernoteは……

新機能の方向性に疑問

ここまで、Evernoteのよさを存分に語ってきたのだが、正直なところ不満もかなりある。特に、以前の大型アップデートは、Evernoteのヘビーユーザーほどつらいものがあった。

上の記事でも書いたが、Evernoteが目指す方向性には共感できる部分もある。実際に、プラットフォームが統一されたことによって、より積極的にアップデートを重ねているのは大変素晴らしい。なんだかんだ、定期的に安定性や速度向上のためのアップデートを重ねており、上の記事で書いた当時の不満のいくつかは、すでに解消されている。

とはいえ、それでも根本的にアプリは動作が重い。よくわからない不具合に悩まされることも多いし、削られた機能のいくつかはいまだに復活していない。

そしてなにより、機能追加のアップデートの方向性である。新機能として追加されたホーム画面や、Googleカレンダーとの連携機能、新しいタスク機能は、私にとっては「お、おう……。」というような内容で、あまり魅力を感じなかった。え、そっちの方向に進化してしまうんですか、というコレジャナイ感を強く感じて、今後のEvernoteの行く末が心配になってしまうのだ。

もちろん使い方によっては、非常に有用な機能だとは思うし、待望のアップデートだったという人もいるだろう。サービスの成長のためには、新機能を追加するという試みは非常に大切なことなので、Evernoteの攻めの姿勢は素晴らしいと思う。

ただ、方向性がこれでいいのかどうか。Evernoteのユーザーの多くが、本当にこの新機能を求めていたのだろうか。ユーザーをつなぎ止めるのに(もしくは新規ユーザーを獲得するのに)、本当に有効な機能だったのだろうか。

個人的には、カレンダーやタスクよりも、もっと根本的に、ノート部分での革新に力をいれてほしいなと思う。

今後もずっとEvernoteは存続してくれるのか

ポケット一つ原則に従ってEvernoteにすべての情報を蓄積するというのは、前述したように非常に有効で、私にとっては欠かせないシステムの一つとなっている。

しかし、それは「Evernoteが今後も永遠にサービスを提供してくれること」というのが大前提の話だ。長年にわたって蓄積してきたたくさんの情報が、ある日突然Evernoteのサービス終了によって消えてしまったら、どうなるだろう。

もちろん、ある日突然すべてを失うというのは、自然災害などの要因でも起こりうることなので、心配しすぎてもしょうがない面はある。とはいえ、一つのサービスにロックインされるというのは、それだけリスクが大きくなるのは事実だ。

加えて、最近のEvernoteの動向である。(少なくとも私の観測範囲では)多くの人がEvernoteからNotionなどの新しいサービスに移行している現状だ。それを踏まえると、いきなりサービスが停止するというところまではいかなくとも、収支次第ではジワジワと値上げなどを仕掛けてくるのではないか、という悪い予感がする。実際、Evernoteは2016年に続き、2021年にも値上げを行っている。

有用なサービスにはお金を払うべきだと思うが、一つのサービスに縛られてしまうと、機能に対して価格が割高になってしまうことが多い(割高な価格を受け入れざるを得ない)し、そもそも高額な利用料を支払い続けたからといって、サービスが永遠に続くという保証もない。高額な利用料を支払い続けながら、突然サービスが停止し、蓄積してきた情報を失うとしたら、それはもう悪夢だ。

私はEvernoteが好きだし、Evernoteを信じている。しかし、改悪と値上げを繰り返し、(私にとっては)あまり魅力的でない新機能を追加するEvernoteの将来に、少しだけ、不安を感じてしまったのが正直なところだ。

Evernoteは「大船」か、「泥船」か

ノートを移行するのは容易ではない

実は私は、Notionのインポート機能を使って、EvernoteのノートをNotionに移行しようと試みたことがある。ぱっと見はうまく移行できたようにも見えたが、よく見てみると、構造がめちゃくちゃになっていたり、ノートリンクがうまく機能しなかったり、そもそも移行できないノートがあったりと、うまくはいかなかった。

仮に今後、Evernote社が無くなり、サービスが停止してしまうとしても、さすがに企業の責任として、代替サービスへの移行手段は用意してくれるだろう。(Evernoteは、そういう誠意はある会社だと思う。)

しかし、ノートの形式が標準規格として定まっている状況でもないわけで、どうしたってEvernoteの独自の実装などが足をひっぱり、完璧に移行するのはきっと不可能だろう。それに、仮にノートのデータを移行できたとしても、Evernoteと同等の優れた検索システムを利用できるとは限らない。

Evernoteから他のシステムにノートを移行するのは容易ではない。だから、Evernoteには、今後も安定してサービスを提供し続けてもらわなければならない。そうでないと、泥船に乗っているのと変わらない。この先沈みゆくものに、大切な情報は預けられない。

Evernoteがすべての情報を預けられる安心の「大船」なのか、それとも沈みゆく運命にある「泥船」なのかは、誰にもわからない。それが悩ましい。

重要度を下げる

今確実に言えるのは、EvernoteにはEvernoteの唯一無二のよさがある、ということだ。例え欠点は多くとも、将来に対する不安があろうとも、いまだにEvernoteでないと実現できないことは多い。

しかし、Evernoteの重要度は、下げざるを得ないと感じている。これまで述べてきたように、Evernoteに過度に依存するのはリスクだからだ。

加えて、最近はNotionやRoam Research、Obsibian、Scrapboxなど、魅力的なサービスがとても増えてきた。今までは、「でもEvernoteのほかに手を出したら、ポケット一つ原則が崩れるから」と思って、あまり手を出さなかった。そう考えるのは楽だったが、しかし、それはそれで機会損失だなぁ、と感じていた部分もある。

他のツールを使ってみたいという好奇心もまた、Evernoteの重要度を下げたい理由の一つだ。

繰り返すが、あくまで重要度を下げるだけだ。Evernoteは、これからも使用する。単純にすべての情報を移行するのは労力と時間がかかるというのが第一の理由だが、やはり、情報を蓄積し、検索して取り出すというのは、Evernoteが最も優れているという理由もある。

目指すのは、Evernoteからの移行ではなく、Evernoteとほかのツールの併用だ。

メモアプリ戦国時代の中で

Evernote一筋をやめるということは、これまでポケット一つ原則を貫くことで得られていた果実が失われるということを意味する。そこは痛いが、ツールの使い分けを考え、運用方法を工夫して乗り切るしかないと思っている。

現在のEvernoteの使い方は、10年以上にわたって試行錯誤していく中で完成されたものだ。そこから脱却するのは、正直なところつらい部分もある。Evernoteの将来に不安を感じることがなければ、きっと現在の使い方を今後も維持していただろう。

なにしろ、また、一からツール選びをしないといけないのだから、大変だ。様々なツールを実際に使い、比較検討し、自分にあった使い方を模索していかなければならない。そうでないと、現在のポケット一つ原則によって得られていた安心感は、永遠に取り戻せない。

こういう比較検討は好きだが、やはりツール選びには時間と労力がかかるし、メモアプリ戦国時代の今、せっかくいいツールが見つかっても、近いうちにサービスが停止されるかもしれない。そのツールが今後も続いてくれるのか、という将来性まで見極めるのは容易ではない。

Evernoteが沈みゆく「泥船」かどうかはわからない。ただ、そこから足を踏み出した先は、ツール選びという「泥沼」の世界が広がっている。

しばらくはいろいろ併用して試してみようと思う。ほかのツールが思いのほかよければ、併用ではなく、完全に脱Evernoteをしてしまうかもしれない。逆にしっくりこなければ、運命をともにする覚悟で、Evernote一本に戻るかもしれない。

じっくり考えて決めよう。群雄割拠の戦国時代では、どの武将につくかというのは死活問題なのだから。

脚注

  1. 例えばAppleのメモアプリは、iCloud容量の上限が、実質的な保存容量の制限だ。
  2. 有料プランなら、月間で10GBまたは20GBまでアップロードして保存することが可能。
  3. 唯一、手書きのメモをサッと書いて保存する、という部分ではやや物足りないので、別の手段でカバーしている。

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